[エルサレム 26日 ロイター] - パレスチナ自治区ガザとの境界で戦車の前に立ったイスラエルの将軍は、イスラム組織ハマスとの戦闘に関する演説の途中で、テレビ放映されているにもかかわらず、イスラエルの政界指導者への批判を挟んだ。
批判を口にしたのはダン・ゴールドファス准将。「あらゆる陣営」の政治家に対し、過激主義を退けて団結し、今回の紛争が始まった昨年10月以前の状態に戻ることのないよう呼びかけた。当時のイスラエルは、政治的な対立と数カ月続いた抗議行動により深刻な分断に陥っていた。
イスラエルの主要テレビ局で放映された3月13日の状況説明で、ゴールドファス准将は、「私たちにふさわしい政治家であるべきだ。政治家は、命を落とした兵士たちにふさわしい存在でなければ」と語った。
イスラエル国防軍(IDF)によれば、その2日後、ゴールドファス准将は参謀総長のヘルツィ・ハレビ中将からけん責を受けたという。だが同准将の言葉は、戦場から戻った国民の一部に共感を呼んだ。
予備役として5カ月の任務を終えたばかりのバラク・レイチャーさん(42)は、「自分たちが命と時間を犠牲にしているのに政治家たちはくだらない政争に明け暮れている、と感じている多くの兵士を代弁してくれた」と言う。
ロイターは軍事基地や議会、自宅、抗議の現場で13人の予備役および徴集兵に話を聞いた。誰もが戦場における兵士たちの士気の高さを指摘する一方で、大半がイスラエル政界上層部に対する不満を明らかにした。
政治的な立場としては対立する複数の兵士は、徴兵制度の改革や除隊後の予備兵が抱える経済的な問題など、重要な問題に政府が取り組んでいないと怒りを口にした。
イスラエル軍は政府の政策に関するコメントは控えており、ロイターの質問に対しても今のところ回答はない。首相府からも回答は得られなかった。
1200人が殺害され、250人以上が人質となった10月7日のハマスによる攻撃の後、イスラエル国民は悲嘆の中で団結した。ネタニヤフ首相は、政敵であるガンツ前国防相が率いる中道政党を取り込む挙国一致内閣を組んだ。
昨年のイスラエルでは、右派政権による評判の悪い司法改革案を巡り大規模な抗議行動が見られたが、そうした政治的混乱もこの組閣によって沈静化した。
だが、その後ふたたび分断が露呈している。10月7日の攻撃を招いた治安体制の不備について閣僚らは互いに非難し、財政に関する小競り合いや、戦時内閣のポストを巡る権力抗争も見られる。
対立の焦点となっているのは、ネタニヤフ連立内閣による新たな徴兵法案の起草について最高裁判所が設けた3月31日という期限だ。下手をすれば内閣にとって命取りになりかねない。
ネタニヤフ政権にとって頼みの綱は超正統派ユダヤ教政党の支持だが、こうした政党は、自派の信徒について幅広く認められている徴兵免除措置を守り抜くと公言している。
だがガンツ元国防相は、同氏が要求するこれまでより公平な徴兵法が実現しなければ政権を離脱する可能性をほのめかしており、ガラント現国防相も、閣僚が全員一致で賛同する法案でなければ支持しないと述べ、ガンツ氏に歩み寄る姿勢を見せている。
超正統派ユダヤ教徒に対する徴兵免除は、18歳になると2─3年間の兵役を義務づけられる一般イスラエル国民の多くにとって、以前から不満の種になっていた。
また超正統派ユダヤ教徒は、終日の宗教研究を神聖な行為とし、課税の対象となる生業に就かず、もっぱら国家からの給付金に頼って生活している。一方、兵役を務めたイスラエル国民は40歳前後、あるいはもっと後まで、予備兵として招集される可能性があり、その間、職場や家庭から離れることになる。
司法改革案に対する2023年の抗議デモにおいて、予備兵たちは重要な役割を演じた。この改革案で最高裁が骨抜きになると主張し、招集に応じない姿勢をちらつかせる人もいた。
当時の抗議に参加した予備兵組織の中で最も目立つ存在だった「ブラザーズ・イン・アームス」は今月、政府に対する抗議のため、今度は徴兵法改正に重点を置く街頭デモを再開すると発表した。
「ブラザーズ・イン・アームス」のメンバーで陸軍予備役のオムリ・ローネン大尉は23日、全国規模の集会の1つで、「この国で何かを実現する唯一の方法は、抗議行動だ」と述べた。「これが最後のチャンスになるかもしれない。逃すわけにはいかない」
<公平な負担を求めて>
長年にわたり、徴兵に基づく軍隊にはさまざまな属性のイスラエル国民が集まっていた。軍の倫理規範は、政治からは距離を置くことを旨としていた。
だが予備役の兵士たちは紛争後の政治的変化に影響を与える役割を果たしてきた。1973年の第4次中東戦争や、1980年代と2006年のレバノン紛争の後には、政府への抗議を通じて、当時のイスラエル指導部の退潮を加速した。
無党派のシンクタンク、イスラエル民主主義研究所(IDI)が3月14日に発表した1200人を対象とする調査によれば、イスラエルで多数を占めるユダヤ人の間では、政界指導者に対する信頼よりもIDFに対する信頼の方が約4倍も高かった。
IDIのヨハナン・プレズナー代表は、「選挙で選ばれた公職者を信頼しているのは、市民の4分の1にも満たない」と語る。ただし同代表は、イスラエル社会全体に対する連帯感は、大規模な抗議行動が見られた2023年半ばの低水準に比べ、開戦後に回復したと指摘している。
ガザ地区への地上侵攻を開始して以来、イスラエルは約30万人の予備兵を招集した。これは過去数十年で最大規模の動員となる。約4カ月後には除隊が始まった。
除隊となった予備兵の一部は、街頭に出て抗議行動に参加している。昨年の大規模抗議に比べれば参加人数ははるかに少ないが、ほぼ毎日のように国内のどこかで抗議が行われている。
リーフ・アーベルさん(25)は昨年10月に研究生活に入る予定だったが、120日間にわたりガザで戦うことになった。従軍期間中、周りの兵士が対戦車ミサイルの攻撃で死亡したと話す。
ロイターの取材に応じた複数の予備兵と同様に、アーベルさんも、市民生活に戻ったとき、政府に見捨てられたという感覚を味わったと語る。
「除隊すれば自分で食料品を買わなければならないが、物価は上がっているし家賃も上がる予定だ。政府は私の生活などにはまったく無関心だ。自分が政界で生き残ることにきゅうきゅうとしている」とアーベルさんは言う。
アーベルさんは2月26日、イスラエル最高裁の外で行われた数百人規模のデモに参加した。最高裁では、超正統派ユダヤ教徒に与えられた徴兵免除に対する異議申し立てに関する聴聞会が行われていた。
ガザでの戦闘でイスラエル側にも過去数十年で最多の犠牲者が出る中、この問題は不穏さを増している。IDFによれば、10月7日以来、約600人のイスラエル兵が死亡しており、これは2006年のレバノン紛争による犠牲者のほぼ5倍だ。
とはいえ、アーベルさんは再度招集があったら応じるつもりだと言う。「それでも応召する理由は、私たちがイスラエルを防衛しており、人質(の奪還)に近づいていると分かっているからだ」
ガザ地区の保健当局は、イスラエルの軍事作戦で3万2000人以上が犠牲になったと発表している。
<従軍による経済的負担>
予備兵にとって、徴兵制度への憤りをさらに募らせるのが、数カ月にわたって仕事や事業から離れることによる経済的ダメージだ。
開戦以来、イスラエルは予備兵のために90億シェケル(約3700億円)の支援措置を導入した。内容としては、子育て世帯向けの給付金の増額、事業オーナー向けの保証や融資などが含まれる。
経済委員会によれば、1月以降で、招集に応じた中小企業オーナー約1万人が補償給付金を申請しているという。これまで約半数が承認され、既に6200万シェケル以上が支払われた。
イスラエルの主要労働組合「ヒスタドルット」は労働福祉委員会に対し、雇用が脅かされたという内容も含め、予備兵から権利侵害の訴えを数千件も受けていると伝えた。職または生計手段を失った予備兵について、当局は正確な数字を把握していない。
ロイ・マフード氏が主宰する予備兵の権利擁護団体「コンバット・フォーラム」も、やはり数千件の支援要請を受けているという。「人々は傷ついている」とマフード氏は言う。
シャニ・コーエンさん(35)は10月7日に招集を受けた。最初の2カ月はガザ地区境界での待機要員だった。職場からは1月に解雇された、とコーエンさんは言う。
「私自身は政治的なタイプではないが、人々はこの国が戦時下にあることを忘れ始めているように感じる」とコーエンさん。「私たちは、自分たちを分断する要因ではなく、団結させる要因に焦点を当てるべきだ」
(翻訳:エァクレーレン)
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2024-03-28 05:56:26Z
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