台湾の蔡英文総統が、アメリカのロサンゼルス郊外でマッカーシー下院議長と会談しました。中国が反発を強める中、両者は台湾とアメリカの連携を強化していくことで一致しました。
中米2か国の訪問を終え、経由地のアメリカに滞在している台湾の蔡英文総統は日本時間の6日未明、西部カリフォルニア州のロサンゼルス郊外でマッカーシー下院議長と会談しました。
アメリカメディアによりますと台湾の総統が、大統領権限を継承する順位が副大統領に次ぐ2位の要職である下院議長と、アメリカ国内で会談するのは初めてです。
会談後に行われた共同発表でマッカーシー下院議長は「アメリカと台湾のつながりはかつてなく強くなっている。経済的自由と平和、地域の安定を維持することはとても重要だ」と述べました。
これに対し蔡総統は「われわれの平和と民主主義は今、これまでにない試練に直面している」と述べたうえで「アメリカ議会からの揺るぎない支援は、台湾が孤立していないとわれわれを安心させるものだ。平和な現状を維持していく決意について議論した」と応じました。
会談が行われた「レーガン・ライブラリー」は、台湾への武器売却などを後押ししたレーガン元大統領にちなんだ場所で、双方の結びつきを象徴する場所の1つでもあります。
台湾をめぐって、中国は、台湾は中国の不可分の一部だなどとする「1つの中国」の原則を主張していて、去年8月に、当時、下院議長だった民主党のペロシ氏が台湾を訪問した際は、台湾周辺で大規模な軍事演習を行い、反発を強めました。
アメリカのブリンケン国務長官は「中国は、蔡総統の立ち寄りを口実に緊張を高める行動をとるべきではない」と述べてけん制していますが、今回も中国は強く反発していて、会談を受けて、中国がどのような対応をとるのかが焦点となっています。
マッカーシー下院議長の思惑は
ただ、複数の議会筋は、今回、台湾を訪問するのではなく、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外で会うのは、その方が現時点でアメリカと台湾双方にとって得策だとの計算があるからだといいます。
その判断に大きな影響を与えたのが去年8月、当時、下院議長だった民主党・ペロシ氏の台湾訪問です。
バイデン政権との事前の調整がほとんどなかったとされ、台湾との強いきずなをアピールできた反面、中国の激しい反発を招き、中国軍機が台湾との中間線を越えて飛行することが常態化するなど、「現状変更」を許したという批判的な見方がワシントンでは根強くあるからです。
このため、中国に現状変更を試みる口実をできるだけ与えず、同時に台湾への強い支援を国内外に示すには、アメリカ本土の、それもマッカーシー議長の地元であるカリフォルニア州に台湾総統が「立ち寄る」際に会うのが最善との判断に至ったとみられます。
アメリカ議会は、中国が軍事力も駆使して台湾統一をはかる台湾有事のリスクが高まっているとの認識のもと、対中強硬姿勢を強めています。
下院議長が、台湾を訪問するのではなく、アメリカ国内で会談することに「弱腰」との批判も出かねない状況ですが、今回は議会からそうした声はあがっていません。
むしろマッカーシー議長肝いりの、議会下院・中国特別委員会のメンバーを中心とした超党派の議員団が会談に同席し、アメリカ議会が台湾を強く支援していく姿勢をアピールする機会として利用するねらいです。
米国務長官「中国 立ち寄り口実に現状変更推進するべきでない」
そのうえで「中国は蔡総統の立ち寄りを口実に緊張を高め、現状変更を推し進めるための行動をとるべきではない」と述べ、去年8月、当時のペロシ下院議長が台湾を訪問したのをきっかけに、中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行うなど台湾への軍事的な圧力を強めたことを念頭に中国をけん制しました。
一方、ブリンケン長官は「われわれの台湾政策は、『1つの中国』政策をはじめ、変更はない」とも強調しました。
ブリンケン長官としては、アメリカ上空を飛行した中国の気球をめぐる問題でみずからの北京訪問が延期された状況が続くなど、米中両国の対話が停滞する中、これ以上、中国との対立を深めることは避けたい思惑もあるものとみられます。
台湾めぐる米中の立場 会談場所に込められたねらいは
これに対し、アメリカは「中国は1つで、台湾は中国の一部」という中国の立場に異論を唱えないとしつつも、「『1つの中国』原則」をそのまま受け入れることはせず、▽台湾関係法、▽3つの米中共同コミュニケ、▽「6つの保証」を要素とする「『1つの中国』政策」をとっています。
このうち「6つの保証」は1982年、当時のレーガン大統領が台湾に示したもので、▽台湾への武器売却の終了日を設定することに同意しない、▽台湾への武器売却について中国に意見を求めることに同意しない、などの6項目からなっています。
蔡英文総統は2018年8月の中南米歴訪の際にもアメリカを経由して「レーガン・ライブラリー」を参観し、「『6つの保証』は今でもアメリカの対台湾政策の重要な基礎になっている」と、レーガン大統領をたたえていました。
今回、蔡総統とマッカーシー下院議長の会談場所に「レーガン・ライブラリー」が選ばれたことには、台湾に対する武器売却を含むアメリカの強い関与をあらためて示すねらいが込められていそうです。
「レーガン・ライブラリー」とは
記念図書館のウェブサイトによりますと旧ソビエトのゴルバチョフ書記長との首脳会談についての記録など6000万ページを超える文書や160万点を超える写真が所蔵されています。
また、巨大な展示スペースにはレーガン氏が搭乗した大統領専用機「エアフォースワン」などのゆかりの品々が展示されています。
アメリカでは大統領の退任後、任期中の記録や資料が失われるのを防ぐため、法律に基づいて大統領の記念図書館が設立されています。
記念図書館は通常、大統領の出身の州に設けられ文書だけでなくゆかりの品なども保管、展示し研究や学習のために一般に公開もしています。
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2023-04-05 21:20:48Z
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