フランク・ガードナー、BBC安全保障担当編集委員
アメリカ政府は7日、ロシアの侵攻と戦うウクライナを支援するため、クラスター弾を供与すると発表した。
クラスター弾の使用について批判は多く、100カ国以上がその使用などを禁止している。今後さまざまな人権団体から激しい批判が予想される。
クラスター弾とは
クラスター弾は、1つのロケット砲やミサイルや砲弾が飛行中、多数の小型爆弾が広範囲に飛び散る仕組みの兵器。
飛び散った小型爆弾は着弾と共に爆発する設計だが、相当数は不発で終わる。特に、濡れた地面や柔らかい地面に着弾した場合、不発となることがある。
不発として残った小型爆弾は後日、誰かに拾われたり踏まれたりした際、その人を死傷させる危険がある。
軍事的には、地中に穴を掘った塹壕(ざんごう)や要塞(ようさい)化した位置を拠点としている兵に対して、恐ろしいほど攻撃の効果が高い。クラスター弾がいったん落下すると、その一帯から不発弾を徹底的に撤去しない限り、その範囲内での移動は危険すぎるという結果をもたらす。
なぜ禁止されているのか
クラスター弾は殺傷力が高く、不発として残った一部が無差別に民間人に危害を及ぼす危険がある。2008年に採択された「クラスター弾に関する条約」は、クラスター弾の使用、開発、生産、取得、貯蔵、保有及び移譲並びにこれらの活動を行うことについて援助、奨励及び勧誘を行わないことを約束するもの。これまでに日本やイギリス、フランス、ドイツなど100カ国以上が署名している。
着弾して住宅地や農地に不発のまま放置された小型爆弾は、小さいおもちゃにも見えるため、好奇心からそれに触れたり拾ったりする子供が、被害を受ける危険がとりわけ高い。
複数の人権団体はクラスター弾を「おぞましい」兵器と非難し、その使用は戦争犯罪にさえ相当するとしている。
誰が今も使っているのか
2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が本格的に始まって以来、ロシアもウクライナも、お互いにクラスター弾を使用してきた。
どちらの国もクラスター弾条約に参加していない。アメリカも同条約に参加していないが、ロシアが頻繁に使用することをアメリカは過去には批判してきた。
ロシア製クラスター弾の不発率は40%だとされている。つまり、多くの小型爆弾が危険な状態で地面に放置される。それに対して平均的な不発率は20%近くだという。
米国防総省は、アメリカ製のクラスター弾の不発率は3%未満だと推計している。
なぜウクライナはクラスター弾を要求しているのか
ウクライナの砲弾不足が深刻化している。ロシア軍と同様、ウクライナ軍も非常に速いペースで砲弾を消費しており、西側の同盟諸国による補充が間に合わないからだ。
ウクライナ南部や東部の戦場では、両軍ともほとんど前進することなく膠着(こうちゃく)状態が続いている。そこでは、砲弾が最も重要な武器なのだ。
ロシア軍は全長1000キロに及ぶ前線のいたるところに塹壕や拠点を掘り、徹底的に守りを固めている。ウクライナ軍は現在、そこからロシア勢を追い出さなくてはならないという、大変な作業に取り組んでいる。
アメリカ政府にとって、これは決して簡単な決定ではなかった。与党・民主党内からも、多くの人権活動家からも、厳しく非難されている。クラスター弾の供与をめぐる議論は少なくとも半年前から続いていたものだ。
アメリカの決定の影響は
ウクライナでの戦争についてアメリカ政府はこれまで、道義的な正当性は自分たちにあるという姿勢を堅持してきた。今回の決定の直接的な影響として、アメリカのその姿勢が大きく揺らぐことになる。
ロシアが数々の戦争犯罪を重ねてきたとされる内容は、数多く記録されている。しかし今回の動きは、アメリカの偽善を表すものだと批判されるだろう。
クラスター弾はおぞましく残酷な無差別兵器だ。世界の大半で禁止されているのは、それなりの理由があってのことだ。
今回の決定でアメリカの歩調は、他の西側諸国と多少ずれてしまうはずだ。そして、西側の同盟関係に多少なりともひびが入ったという、そういう見た目こそ、まさにロシアのウラジーミル・プーチン大統領が求め、必要としていることだ。
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2023-07-08 04:35:14Z
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