新しいEU外相は「イラン寄り」イスラエル紙
[ロンドン発]英領ジブラルタル自治政府と英海兵隊がイランの30万トン級石油タンカー「グレース1」をジブラルタル沖で拿捕した事件で、イラン革命防衛隊の元司令官モフセン・レザーイー氏は5日、ツイッターでこう警告しました。
「この40年間、イスラム革命はいかなる緊張を自ら作り出したことはない。しかし弾圧に対して行動を起こすのにためらいはない。もし英国がイランの石油タンカーを即刻、解放しないなら、英国の石油タンカーを拿捕するのがイラン当局の責務だ」
レザーイー氏は、ペルシャ湾を舞台に1980年代に起きたイラン・イラク間の「タンカー戦争」を指揮したことがあります。現在はイラン最高指導者アリ・ハメネイ師に助言する最高評議会の書記です。タンカー戦争では日本向け定期用船を含む543隻が攻撃を受けました。
ジブラルタル自治政府は「いついかなる時も、いかなる政府からもジブラルタル自治政府の行動について政治的な要求を受けることはない」との立場を強調しています。
これに対して、ジブラルタルの領有権を英国と争うスペインのジョセップ・ボレル外相は地元メディアに「グレース1の拿捕は米国から英国への要請に基づいて行われた。スペインは事前に知らされていた」と話しています。
そして「この事件がスペインの主権にどう関わってくるのか、状況を精査している」とも述べています。スペインは、拿捕は同国の領海で行われたと批判しています。
ボレル氏は2004~07年にかけ欧州連合(EU)の欧州議会議長を務めた重鎮です。欧州議会選の結果を受け、EU首脳会議からEU外相に当たる外交安全保障上級代表に指名されたばかりです。
イラン核合意を支持するボレル氏は米国の制裁再開を厳しく批判しており、イスラエルは「我が国に厳しく、イランに甘い」と警戒しています。
世界最大のエネルギー生産国になった米国の狙い
中東では(1)イスラム教スンニ派のサウジアラビアとエジプトに加えてイスラエル(2)サウジに対抗意識を燃やす同派のトルコとカタール(3)イスラム教シーア派イランの3勢力が地域的な覇権争いを繰り広げています。
別働隊としてスンニ派武装組織vsシーア派武装組織が活動を活発化させ、イラク、シリア、リビア、イエメンで混乱が深まっています。そこに米国vs中国・ロシアの思惑が絡み、難民問題を抱えるEUが右往左往しているような感じです。
シェールガス革命のおかげで米国は今や世界最大のエネルギー生産国になりました。イラン産原油を全面禁輸にすれば、米国や同盟国のサウジの石油や天然ガスが売れるという計算も働いているのかもしれません。
米国の石油生産量は昨年、日量1096万バレルと2位サウジの日量1042万バレルを上回っています。天然ガス生産量でも2015年推計で7662億立法メートルと2位ロシアの5980億立法メートルを大きく引き離しています。
しかし米国の真の狙いは、イランによる核兵器開発の芽を完全に摘み取ってしまうこととシーア派武装組織への資金供給ルートを遮断することです。英国は今回の拿捕で米国側に着く姿勢を鮮明にしました。
下がる原油価格
上はMarineTrafficで見たホルムズ海峡を航行する船舶のライブマップです。赤色がタンカーです。
原油輸送の20%を占める大動脈、ホルムズ海峡の周辺で東京の海運会社「国華産業」が運航するタンカーなど6隻が攻撃されました。さらにイラン革命防衛隊は、領空侵犯したとして米国の無人偵察機RQ-4グローバルホークを撃墜しました。
これに対してイラン最高指導者アリ・ハメネイ師に対する米国の制裁が発動され、今回、英海兵隊がイランの石油タンカーを急襲して拿捕しました。
しかし高騰してもおかしくない原油価格は4月25日の1バレル=75ドルから65ドル(ブレント原油)に下がっています。
米有力シンクタンク、ブルッキングス研究所のサマンサ・グロス研究員は同研究所のホームページで次のように分析しています。
「攻撃には付着機雷が使われた。1回目の攻撃はタンカーを壊すのではなく、動けないようにするためだ。2回目は火の手が上がり、乗組員は救出された。証拠はイランを指差し、イランには動機もある」
「原油価格はこの2カ月間で1バレル当たり10ドルも下がっている。ベネズエラやリビアの原油減産と米国によるイラン産原油の全面禁輸は原油価格の上昇圧力になるのに、中国経済の減速、エスカレートする米中貿易戦争が下降圧力として働いている。タンカー攻撃より市場は下降圧力を重視している」
「攻撃されたタンカーは原油を積んでいなかった。サウジ船籍のスーパータンカーを除き、5隻は小さかった。攻撃は原油市場を混乱させるためではなく、メッセージを送るのが目的だった」
「ホルムズ海峡の封鎖はイランにとって自殺行為になる。バーレーンに拠点を置く米海軍第5艦隊が即座に出動し、封鎖を解除するだろう。イランは世界の原油輸出国や中国まで敵に回してしまう恐れがある」
(筆者注)香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官はグロス研究員とは異なり、「国華産業」のタンカーの喫水から原油を積んでいたとみています。
20倍にハネ上がったタンカーの保険プレミアム
イランの攻撃に今のところ反応しているのは中東の原油を運ぶタンカーの保険プレミアムで、最大20倍にハネ上がっているそうです。イランの狙いは米国との戦争ではなく、原油全面禁輸の解除です。
イランでは11.6~14.9%が絶対的貧困ラインを下回る生活を強いられています。米国の経済制裁が続くと再び全国的な大規模デモが起きる恐れがあります。
次期大統領選が近づくドナルド・トランプ米大統領は、圧力をギリギリまで高めるはずです。イランを交渉テーブルに引きずり出して核合意の内容をさらに厳しくしたいからです。
安倍晋三首相が現職首相として41年ぶりにイランを訪問したことについて、シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック前アメリカ本部長(現アソシエイト・フェロー)は筆者にこんな見方を示しました。
「トランプ氏はおそらく自分は交渉のテーブルに着くつもりがあることをイランの指導者たちに伝えるよう安倍首相に頼んだのでしょう。そして、善意の印として拘束されている米海軍退役軍人の解放をイラン政府に促したのでしょう」
本格的な軍事衝突は回避しながら、米国とイランの駆け引きはまだまだエスカレートする恐れがあります。
(おわり)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20190706-00133102/
2019-07-06 08:50:00Z
52781799419585
Tidak ada komentar:
Posting Komentar