<自分でつくり出した危機を「解決」して自画自賛するトランプ外交。最終的にトランプは完全にトルコ側に回る可能性もある>
トランプ米大統領には、お気に入りの外交アプローチがある。まず、長期間続く問題を自分の発言で深刻な危機に変える。次に根本の問題ではなく、自分が引き起こした危機を「ディール(取引)」によって終わらせる。最後に、問題を解決したと称して勝利を誇る。
最も有名な例が、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長との首脳会談だ。トランプと金のディールは北朝鮮との戦争のリスクを減らしたが、そのリスクの大部分はトランプが戦争になると脅し続けたせいで生じたものだ。その結果、金は外交的勝利を収め、核兵器を放棄する必要さえなくなった。
米政府は10月17日、同様のパターンでトルコとの停戦合意がまとまったと発表したが、このディールはさらにひどい結果を招く可能性がある。
この日、トルコを訪問したペンス米副大統領と同国のエルドアン大統領が合意した内容は、トルコはシリア北部での軍事作戦を5日間停止し、アメリカと同盟関係にあったクルド人民兵組織・人民防衛隊(YPG)が、トルコ・シリア国境の南20マイル(約32キロ)の範囲に設置される「安全地帯」から撤退できるようにするというものだ。
この地域はこれまでクルド側が支配していたが、安全地帯は「主としてトルコ軍が管理する」ことになる。一方、アメリカは軍事作戦の停止を待ってトルコへの制裁を撤回することに同意した。
この合意は「停戦」ですらなく、あくまで軍事作戦の「一時停止」にすぎないと、トルコの外相は主張した。それでもトランプは、すぐにツイッターで「勝利宣言」を行った。
「3日前には『絶対に』不可能だったディールだ。誰にとっても素晴らしい。(関係者)全員を誇りに思う!」
クルド人を侵略者扱い?
しかし、このディールはそもそも必要ではなかった。トルコが越境攻撃に踏み切ったのは、クルド人勢力を支援していた米軍の撤退をトランプが発表して、エルドアンに事実上のゴーサインを出したからだ。
軍事作戦の開始前、アメリカとトルコは既に安全地帯の設置で合意していたが、トルコ側は国境から20マイル幅の範囲を望み、アメリカはクルド人のために数㍄幅にとどめるよう主張して対立していた。
トルコは今、望みのものを獲得した。エルドアンはアメリカの制裁撤回に加え、国内での政治的得点も稼ぐだろう。一方、トルコの攻撃を受けたクルド人勢力は、敵対してきたシリアのアサド政権と、その後ろ盾であるロシアと手を結んだ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13224.php
2019-10-21 06:15:00Z
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