三菱重工業はじめ、70社を超える日本企業が訴えられている韓国の徴用工訴訟。昨年10月には、韓国の最高裁にあたる大法院が新日鐵住金に損害賠償を命じた。日本は韓国側に求めているが、韓国政府は応じずこう着状態に。
しかし、ここにきて原告団の動きも止まっているという──その背景には?朝日新聞元政治部長の薬師寺克行氏が解説する。
包括的な和解を望む原告団
韓国の元徴用工に対する日本企業の賠償責任を認める判決が出てから半年が経つ。判決を受けて原告団は新日鐵住金など日本企業の資産の差し押さえを申請し認められている。これを受けて差し押さえの対象となった株式や商標権などの売却命令を裁判所に申請して認められれば現金化し、そのお金を原告に支払うことができる。
元徴用工の要求はこれで実現することになる。ところがここにきて原告団の動きが止まっている。その背景には判決を生かして元徴用工全体の救済を実現しようという原告団の判断があるようだ。
原告団の代理人である崔鳳泰弁護士は4月22日、東京都内の日本記者クラブで開かれた記者会見で、日韓請求権協定に基づく政府間協議が実現するならば、協議継続中は被告企業の資産売却を保留できるなどと発言した。
それに先立ち3月下旬にも原告団は、「差し押さえ資産すべてに対し売却命令申請を先送りし、再び日本企業に協議を要請する。被害者らは判決によって当然行使できる権利を遅らせながら、両企業の責任ある意思表明を待っている」という報道資料を公表している。
確定した大法院判決に従って原告側が差し押さえた日本企業の資産を売却し現金を手にしようとすれば、日本政府や企業にこれを止めるための対抗手段はない。しかし、原告弁護団は最後の現金化の手続きを当面は取らないと繰り返し表明したうえで、日本企業や日韓両国政府に問題解決のための協議を求めている。
原告団はなぜ売却手続きを止めたうえで協議を求めているのか。関係者によると、差し押さえた日本企業の資産を売却しようとしても簡単には買い手がつきそうにないことが判明したためではないか、という見方が出ている。しかし、もっと本質的な理由があるようだ。
それは原告団の代理人や支援組織にとって、一部の元徴用工が訴訟で勝ち賠償金を手に入れることが最終目的ではなく、元徴用工とされる人たち全員が何らかの方法で幅広く救済されることを目指しているからだ。
崔鳳泰弁護士も過去に、「個別の訴訟で賠償金を受けるのではなく、提訴しなかった徴用被害者を含めて被害者を対象にした包括的な和解を望むため、売却命令までは申請しなかった」(1月9日付の韓国「中央日報」)と語っている。
元徴用工は韓国政府が認定した人だけで22万人余りとなっている。日韓の関係者によると、原告団が訴訟に持ち込んだのは日本企業に雇われて働いたことが証明できる明確な資料を持っていた人に限っている。つまり訴訟に勝った元徴用工は全体の中から選ばれた代表のような位置づけである。
とりあえず裁判には勝ったものの、どうやら原告団にとって今後の対応は容易ではないようだ。大法院判決が原告勝訴で確定したからと言って、元徴用工全員の賠償が認められるわけではない。一人一人が訴訟を起こし、証拠を提示しなければならない。
しかし、多くの元徴用工は日本企業に雇われていたことなどを証明することのできる書類を持っていない。請求の根拠を示すことができなければ、裁判所も原告の要求を認めることはできない。そのため弁護団が後に続く提訴に慎重な姿勢を取っているのだが、法律的には当然の対応だろう。
そんな状況の中で今回、勝訴した元徴用工ら一部の人だけが賠償金を手にすることになると、全員の救済という原告団や支援組織の目標達成がかえって難しくなりかねない。元徴用工の間に、賠償金を得られる人と不可能な人が生まれ、組織の中に亀裂が入るのではないかという懸念もある。
原告団らにとって最善の策は、韓国政府や日韓の関係企業が元徴用工全員の救済策を打ち出すことである。それを実現するためには、今この時点であえて差し押さえされた日本企業の資産の現金化はせず、判決をテコに両国政府などに働きかけを強める方が得策である。そう考えているようだ。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190429-00000007-courrier-kr
2019-04-29 06:00:00Z
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