(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使) 昨日の寄稿で、文在寅氏の異例の肩入れにもかかわらず、韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)産業通商資源部通商交渉本部長は、ナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ元財務相と争っているWTO事務局長選挙で劣勢を強いられていることを解説した。 【写真】WTOの事務局長選の最終候補に絞り込まれた韓国の兪明希氏(左)とナイジェリアのオコンジョイウェアラ氏 しかし文政権は、兪氏の支持に回っている米国を頼りに、最終選考での逆転を期待し、通例に従わず事務局長選を辞退しない姿勢である。文政権の粘りが功を奏することになるのか、その展望について考察する。 (参考記事:WTO事務局長選で劣勢の韓国「日本がネガキャン」) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62711 ■ WTO一般理事会はナイジェリア候補を推戴 WTO一般理事会議長のデービット・ウォーカー議長は28日夜、兪氏に「ナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏が選好度調査で多くの得票があり、オコンジョイウェアラ氏を推戴することにした」と公式に通知した。この内容を兪氏に直接通知したことは、「兪氏に対して自主的な辞退を勧告する性格を持つ」と韓国「中央日報」は伝えている。 オコンジョイウェアラ氏は選好度調査において、アフリカ連合(AU)41カ国、欧州連合(EU)27カ国を含め過半数をはるかに超える104カ国(WTOメンバー国は164カ国)の支持を受けた。英「ガーディアン」紙によれば、消息筋の情報として、オコンジョイウェアラ氏はAU、EU以外からも、カリブ諸国、中国、日本、オーストラリアなどの支持を得たという。 WTOの事務局長はコンセンサス方式に基づいて選出される。そのため今回、両候補を巡って分かれた加盟国の見解を最終的に調整し、来月9日に開催される一般理事会で満場一致により次期事務局長を推挙する見通しだ。
WTOは声明で「加盟国・地域のコンセンサスを得る可能性が最も高かったのはオコンジョイウェアラ氏だ。次期事務局長としてオコンジョイウェアラ氏を推薦する」と発表した。 この流れを受け、さすがに韓国でも「兪明希氏当選の可能性は遠のいた」との見方が強まっている。 ■ それでも諦めない文政権 ただ中央日報によれば、韓国政府のある高官はこの結果について「オコンジョイウェアラ氏が過半数の票を得ることは予想されていたが、差が大きく広がった」としながらも、「状況は悲観的ではあるが、米国とEU、中国など強大国間の水面下の協議によって加盟国の支持が変わって1次投票の結果が覆される場合もある」と述べたという。 事ここに至っても、兪氏のWTO事務局長就任を諦めていない。青瓦台と政府は、ひとまず、「兪氏の辞退はない。最後まで最善を尽くす」という立場を堅持するようだ。 韓国が粘るのには理由がある。米国が親中指向を持つとされるオコンジョイウェアラ氏の就任に対して拒否権を行使すれば、「全会一致」が成立せず、米中間の終盤調整によっては兪氏が当選する可能性もあると期待しているためだ。 ■ 米国の韓国候補支援の本気度は 韓国政府が期待する米国は、韓国の兪明希氏支持に傾いている。いや、正確に言えば、ナイジェリアのオコンジョイウェアラ氏の不支持の意向を固めている。 米国は28日午後、WTO本部で開かれた非公式会合で、ナイジェリアのオコンジョイウェアラ氏を支持しないと表明したのだ。 さらに、米国の政治専門メディア「Politico」は27日(現地時間)、国務省が在外公館にあてた電文で「駐在国政府がどの候補を支持するのか」を聞き、「まだ決めていないのなら兪氏を支持する方向でそれとなくやんわりと勧めるように」と指示したと伝えている。主要経済国の中ではインド・中国・ブラジルなどは支持候補を公表していない。
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2020-10-29 23:35:48Z
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