【ロンドン=佐竹実】ノルウェーのノーベル賞委員会は8日、2021年のノーベル平和賞をフィリピンの著名ジャーナリスト、マリア・レッサ氏とロシアの独立系新聞編集長ドミトリー・ムラトフ氏に授与すると発表した。
レイスアンデルセン委員長は授賞理由について、両氏がフィリピンやロシアで「表現の自由のための勇敢な闘い」に取り組んできたと説明した。「民主主義と報道の自由がますます不利な状況に直面している世界で、理想のために立ち上がったすべてのジャーナリストの代表だ」とたたえた。表現の自由は紛争回避に「不可欠だ」とも強調した。
強権体制と対峙する人々の言論の自由を後押しする狙いを授賞に込めた。
フィリピンのオンラインメディア「ラップラー」の最高経営責任者(CEO)であるレッサ氏は、薬物捜査のために容疑者の殺害もいとわないドゥテルテ政権のやり方を批判してきた。ドゥテルテ大統領は「フェイク(虚偽)ニュースだ」などとして同社と対立。当局が名誉毀損のほか、脱税や出資法違反などの容疑でレッサ氏を繰り返し逮捕しているが、レッサ氏は「報道の自由に対する不当な圧力だ」として反発してきた。
ドゥテルテ政権は国際的な批判にも関わらず強権的な姿勢を変えず、20年には政府の薬物対策を過去に批判した最大手放送局に放送停止命令を出している。レッサ氏は「民主主義は(存続の)瀬戸際にある」と危機感を示している。
ムラトフ氏は1993年にロシアで独立系の新聞「ノーバヤ・ガゼータ」を発刊、95年から編集長を務めてきた。プーチン政権に対する批判的な論調で知られ、強権的な体制の中で言論の自由や人権擁護に力を尽くしてきた。
90年代から続いた南部チェチェン紛争をめぐっては、政府軍による人権侵害を厳しく報じたことで知られる。特にアンナ・ポリトコフスカヤ氏が知られ、同氏を含めて6人のジャーナリストが殺害された。だが、ムラトフ氏が独立した編集方針を守り、現在も政権批判の急先鋒(せんぽう)に立っている。
ムラトフ氏は8日「この受賞を機に(当局から)圧迫を受けているロシアのジャーナリスト界全体のために頑張っていく」と現地メディアに語った。
例年12月にオスロで開く授賞式について、ノーベル賞委員会は対面で開催できるかどうか10月半ばにも判断する予定だ。賞金は1000万スウェーデンクローナ(約1億3000万円)。
レッサ氏 報道歴35年のベテラン、弾圧に屈せず
【マニラ=志賀優一】ノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサ氏は35年間報道に携わるベテランで、米CNNのマニラ・ジャカルタ支局長などを歴任した。スマートフォンが普及し始めた2012年にオンラインメディア「ラップラー」を共同創業し、最高経営責任者(CEO)を務める。
フィリピンは報道の自由が保障されているが、10年ほど前には地方選挙を巡ってジャーナリストが殺害される事件が起きた。16年に誕生したドゥテルテ政権は、自らに都合の悪い報道を弾圧してきた。その象徴がレッサ氏の度重なる逮捕だ。
英BBCによると、レッサ氏は1970年代初め、当時のマルコス大統領が戒厳令を出したことを受けて渡米した。帰国はマルコス独裁政権を倒した86年のピープル・パワー革命の最中だった。民主主義の重要性を身をもって知っている。
レッサ氏は受賞を受け、「事実がなければ何も実現しない。たとえ事実がつまらないものでも、それを共有することからすべてが始まる」と述べた。
ムラトフ氏、ロシア政権の汚職や人権侵害を批判
【モスクワ=桑本太】ロシアの独立系新聞編集長ドミトリー・ムラトフ氏は、1995年から編集長を務める「ノーバヤ・ガゼータ」で20年以上にわたって政権の汚職や人権侵害などをタブーなく報じてきた。
大学卒業後にジャーナリストを志した。共産主義青年同盟の機関紙などで記者としてのキャリアを重ねる中で「誠実で独立している」新聞をつくりたいとの信念が高まり、中核メンバーの一人としてノーバヤ・ガゼータを創刊した。
プーチン政権下では政権を批判するジャーナリストや活動家らの暗殺事件が相次ぐ。2006年には同紙に所属しロシア南部チェチェン共和国の人権侵害の現場などを取材していた記者が殺害された。実行犯らは逮捕されたが、ノーバヤ・ガゼータは事件には黒幕がおり、未解決だと批判を続ける。
2014年にロシアが武力を背景にウクライナ南部・クリミア半島の併合を一方的に宣言した。この問題でもムラトフ氏は同紙を通じてプーチン政権に批判的な論調を展開した。
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2021-10-08 09:11:47Z
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