ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が同国内で武装蜂起してから7月1日で1週間となる。1日で終結した反乱はプーチン政権や軍内部のもろさを露呈した。政権は事態の沈静化に急ぐが、ウクライナ侵攻への影響など体制立て直しには時間がかかる。核保有大国の混乱がもたらす「暴走リスク」に、欧米は身構える。
「祖国を動乱から救い、内戦を阻止した」。プーチン大統領は6月27日、国防省の軍人や治安部隊を称賛した。ワグネルとの戦闘で「同志の飛行士が命を落とした」とも述べ、黙とうをささげた。
ロシアは詳細を明らかにしていないが、米シンクタンク戦争研究所の24日の分析によると、ワグネルは軍のヘリコプターなどを撃墜し、13人の乗組員を殺害したという。
国防省との対立が深まるなか、プリゴジン氏はショイグ国防相らの更迭を求めて武装蜂起を宣言。24日にウクライナから部隊を移動させ、ロシア南部ロストフ州の南部軍管区司令部を占拠した。
プリゴジン氏は、部隊の一部はそのまま北上してモスクワの南方200キロメートルにまで到達したと主張。その後、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介を経て撤退を決めた。プーチン氏は当初「裏切り者」として処罰方針を示したが、最終的にはプリゴジン氏のベラルーシ亡命を認めた。
一連の動きは、盤石にみえたプーチン政権の弱さを国内外に知らしめた。
武装蜂起を巡っては、ロシア軍内部に協力者がいた可能性も指摘されている。反乱を許したにもかかわらず、30日時点でも軍関係者の更迭や処分は公表していない。政権だけでなく、軍内部の統率の乱れも浮き彫りとなった。
プーチン政権は求心力の回復へと動く。プーチン氏は28日、南部ダゲスタン共和国に反乱終結後、初の地方視察に出向き、市民と笑顔で握手するなど「正常化」をアピールした。
今後は体制の引き締めを一層強める可能性が高い。ウォロジン下院議長は「我々は困難な時に国を去った人を非難する」と発言し、武装蜂起の発生直後にロシアから逃亡した要人を突き止めるように指示した。対象となる政府高官らへの処罰が進むとみられる。
米紙ニューヨーク・タイムズは27日、ロシア軍高官がワグネルの反乱計画を事前に把握していたと報じた。28日にはロシアメディアが、ウクライナ軍事作戦で副司令官を務めるスロビキン氏が拘束されたと伝えた。ペスコフ大統領報道官は29日、同氏の行方について「国防省に聞いてほしい」と述べるにとどめた。
課題は残る。一つはウクライナ侵攻への影響だ。
プーチン政権はウクライナの激戦地でワグネルの作戦能力を頼りにしてきた。反乱後は戦闘員が戦線を離脱し、ウクライナの反攻に直面するロシア側の戦力低下は避けられない。
ウクライナはこの機を捉え、反転攻勢を勢いづける狙いだ。ゼレンスキー大統領は27日公開した動画で、反攻が「あらゆる方面で前進した」と述べた。26日には激戦地の前線を相次いで訪問し、戦闘に参加する部隊らを激励した。
もう一つは、ルカシェンコ氏に貸しをつくったことだ。今後はウクライナに対する参戦を求めるロシアの圧力が弱まる可能性がある。
ルカシェンコ氏は基地の提供やワグネル戦闘員らの受け入れ方針を示しており、ワグネルを西側との外交カードに使うとの見方も出ている。
ベラルーシは北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドなどと国境を接し、西側諸国の安全保障上の懸念はさらに強まる。ベラルーシはロシアの戦術核を受け入れる意向も示している。
ロシアの不安定な状況に欧米諸国は身構える。武装蜂起が起きた24日、米国のバイデン大統領は英国のスナク首相やフランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と電話協議した。ワグネルによる同国での武装蜂起について協議、状況を注視しウクライナ支援を続けることを確認した。
ロシアは世界最大の核保有国だ。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推定によると22年1月時点でロシアが5977発の核弾頭を保有、米国の5428発を上回る。プーチン政権が反乱の影響を食い止められなければ、政権基盤はさらに揺らぎ、核管理におけるリスクが高まりかねない。
https://news.google.com/rss/articles/CBMiPGh0dHBzOi8vd3d3Lm5pa2tlaS5jb20vYXJ0aWNsZS9ER1haUU9HUjI5QzZRMFoyMEMyM0E2MDAwMDAwL9IBAA?oc=5
2023-06-30 09:48:07Z
2168521781