欧州連合(EU)と英国の間に合意がなされた。
英国では、合意の中身より、ジョンソン首相の宣伝効果が功を奏している。
そして、EU加盟国では、もっとも最初から存在して忘れてかけていた根本的な疑問が投げかけられる。
2000ページもある内容を、たった10ヶ月くらいで、しかもコロナ禍の中で交渉を進めた現場の交渉官たちは、大変な努力をしたと思う。
しかし、クリスマス休暇中の慌ただしい合意。誰も中身を落ち着いて精査する環境になく、休み中にもう暫定発効しそうな勢いだ。本当にこれで良かったのか。
フランスの現場からの疑問
「私は合意内容のすべてがわかってからしか、声明を出さないつもりです」。フランスの欧州外交委員会のプレジデントであるジャン・フランソワ・ラパン委員長は、こう言った。
彼は漁師問題を抱える、英仏海峡に面したパ・ド・カレ県の上院議員でもある。「私の県では、みんな漁業に関する合意の詳細を、じりじりしながら待っています」。
「Public SENAT」によると、漁師たちは、この協定について、常に懸念を表明してきた。海洋漁業・養殖地域委員会によると、この県を含むオー・ド・フランス地方の漁業者による漁獲量の75%が危機に瀕しているのだという。
フランス上院では、クレマン・ボーヌ欧州担当大臣が、「英国の条件は受け入れられない」と断言していた。
合意書が今まで封印されていたという事実だけで、それなりの予兆があるように思えたという。
「合意があるという事実は良いことです。でも合意は、英国が欧州市場へのアクセスを容易にするものであり、恩恵を受けるのはイギリス人です。残る問題は、何の見返りがあるかということです」
漁業問題は結局どうなったか
漁業の問題は、どうやら2026年6月までの5年半の移行期間が定められたようである。
その間、欧州の漁業者は年間6億5,000万ユーロにのぼる漁獲量の25%を放棄することになる。その後は、イギリス領海へのアクセスは毎年再交渉されることになるという。AFPが報じた。
もしこれが本当なら、確かに、イギリスがEUの「25%」という数字を受け入れたのは、大幅な妥協だろう。5年半の移行期間というのは、当初EUは10年、英国は3年と言っていたのだから、互いの妥協かもしれない。
漁業が主権の象徴になっていたのに、英国がたった25%しか放棄しないのが「主権回復」になるのかどうか、はなはだ疑問である。
それに5年半の移行期間で何をどうして削減していくかは、未定だという。
一方でEU側としては、根本的な問いが出始めたようである。「なぜEU側が妥協して、何かを失わないといけないのか」。
そもそも、わかりやすくいうのなら、イギリス側の主張はこういうようなものだった。
「私は会社を辞めます。引き止めても無駄です。この会社が嫌なんです。でも、これからもこの会社とのお付き合いは続けたい。会社のシステムも備品も、今までどおり使わせてください。でも、私はもうここの会社員じゃないのだから、会社の規則に従うのは嫌ですよ。私はもう独立して自由なのだから、私のやり方で、会社のシステムや備品を使わさせてもらいます。心配しないでください。それほどかけ離れたことはしませんから」
あれほどジョンソン首相は「合意なし」「イギリスは合意がなくても繁栄する」と強気に言っていたのだから、そうさせてあげるべきではなかったかーーと。
ジョンソン首相のメディア対策と大宣伝
ジョンソン首相の宣伝力は大したものだ。
おそらく、広告代理店か、プロのアドバイザーがついているのではないか。なにせ今時は、戦争にも広告代理店がつく時代である。
英国がもっていた内部文書が、ニュースサイトの「グイド・フォークス」に引用された。
その中の分析では、合意内容で英国の「勝利」が28、EUは11、双方が妥協した分野が26だとしている。文書については、その後英当局者が確認しているという。意図的なリークを感じさせる。
ただ、英国の「勝利」とされているいくつかは、双方の当初の立場を正確に比較してはいない。
フランスの日経新聞「Les Echos」は以下のように書いている。
この広告宣伝は、どこまでその効果はもつのだろうか。
合意内容が公開されて、年が明けてすべての人が仕事に戻ったとき、合意内容はどのように評価されるのだろうか。
そして、EU加盟国の側は?
EU加盟国側の反応はどうだろうか。
バルニエ首席交渉官を筆頭に、欧州委員会は今まで、主にブリュッセル駐在の加盟国大使を通じて、27カ国の首脳の同意を取りながら進めてきたのだから、極端な反対意見は出ないと思われる。おそらく、27カ国の政府レベルでは了承となるだろう。
しかし、各国の現場や識者からは不満が出るだろう。それは、選挙で選ばれなければならない各国の政治家にとって、非常に嫌なものになりかねない。
「5年半」という漁業の移行期間も、本当にギリギリまで妥協したのではないか。EU内は(一応)民主主義国家ばかりだから、5年の間に一度も選挙がない国はおそらく存在せず、それよりは長い期間である、という判断だった可能性はあるだろう。
それに、最初から存在して、目の前のブレグジットの交渉を前に忘れかけていた根源的な問いは、これから一層浮き出るかもしれない。「そこまで自発的に離婚したがったイギリスに親切にして、こちらに何の得があったのか」「極右を活気づけたり、追随したがるものが出てきたりして、EUの屋台骨をゆるがしかねないのではないか」と。
中長期的な展望で見るならば
結局、合意はどのような内容かわからないと判断のしようがないし、実際にどのような運用がなされるのか、しばらく見てみないとわからないだろう。
イギリスに関税ゼロという恩恵を与えたといっても、実は関税はあまり今の世界、特に先進国ではあまり大きなウエイトを占めていない。大事なのは非関税障壁、つまり世界のルールづくりのほうなのだ。誰がイニシアチブをとるか、世界規模で競争しているのである。
世界のルールは誰がつくるのか、ルールを制するものが、ビジネスを制すとすら言えるーーという現代の原則に立ち返れば、英国に対して懲罰的な措置をとらず、EUの勢力圏内に留めておかせたほうが、EUにとっては長期的な利益になるのかもしれないが。。。そういう大きな戦略は、わかりにくいし見えにくいだろう。
さらに、収まる気配のないコロナ禍で、平和と日常が脅かされているからこそ、目に見えやすい効果が期待されている時代なのも、不安材料である。
バルニエEU首席交渉官は、1月1日には「多くの市民や企業にとって」「本当の変化」があると強調した。それは事実に違いない。
そしてEUは、最も影響を受けたセクターを支援するために50億ユーロを予算に計上している。
参考記事:イギリスとEUがついに合意。全く油断できない今後のリスク
https://news.google.com/__i/rss/rd/articles/CBMiOWh0dHBzOi8vbmV3cy55YWhvby5jby5qcC9ieWxpbmUvc2FvcmlpLzIwMjAxMjI1LTAwMjE0Mzc0L9IBAA?oc=5
2020-12-24 22:07:42Z
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