新たな新型コロナ治療薬が承認
2021年9月27日、新型コロナを対象に新たな抗体薬であるソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)が特例承認となりました。厚生労働大臣が正式に承認すると、国内での使用が可能となります。
2021年9月28日現在承認されている治療薬は、ウイルスが増えるのを抑えるレムデシビル(商品名:ベクルリー)、ウイルスによる炎症を抑えるデキサメタゾン、バリシチニブ(商品名:オルミエント)、ウイルスのはたらきを抑える抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)の4つですが、ここにソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)が加わることになります。軽症~中等症Iの新型コロナの治療オプションが増える形となります(図1)
それぞれ作用メカニズムや役割が異なることから、患者さんの病態に応じて使い分けています(図2)。第5波では、デキサメタゾンなどの治療薬が一部不足しました。軽症例にデキサメタゾンなどの全身性ステロイドを安易に使うと病態をむしろ悪化させることがあるので注意が必要です。
レムデシビルは、現在コロナ病棟で最も使われている薬剤の1つですが、入院を要する患者さんで有効とする研究(1,2)、有効でないとする研究(3,4)に見解が分かれており、死亡率に関してはメタ解析では有効性を認めていません(5)。世界的に使用されている薬剤ではありますが、決してこれが特効薬というわけではありません。
抗体カクテル療法は、宿泊施設や入院待機センターだけでなく、往診により自宅でも投与できるようになりました。ただ、軽症ハイリスク患者さん全員に投与できるほどの流通には期待できません。実際、海外では現在抗体薬が不足しつつあります。
ソトロビマブと抗体カクテル療法の違いは?
ソトロビマブは、新型コロナに承認された2つ目の抗体薬です。ソトロビマブは、現在承認されている抗体カクテル療法であるカシリビマブ/イムデビマブと基本的な作用機序(薬が効果を発揮する仕組み)は同じです。ただ、投与される抗体は2種類ではなく1種類です。
「せっかくなら抗体は2種類あったほうがよいのでは?」と思われる方もいるかもしれません。実は、標的となっているウイルスのスパイクタンパクの受容体結合ドメインというところは、抗体薬によって得意とする構造があったりなかったりします(図3)。変異ウイルスだとここに強弱が発生するのですが(6)、ソトロビマブは変異を起こしにくいドメインに作用します。コロナウイルスのスパイクの基礎的なところに作用するため、今後新たな変異ウイルスがあらわれても、効果が変わらないことが期待されます。
たとえば、トランプ元大統領が投与されたバムラニビマブ/エテセビマブという抗体カクテル療法がありましたが、すでにいくつかの変異ウイルスに効果が乏しいとされ、現在使用されなくなっています。2種類の抗体が入っていれば何でもよいというわけではなく、現在主流になっている変異ウイルスに対して有効な抗体を投与したほうがよいのです。
また、抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブには、ウイルスに曝露した濃厚接触者に投与することで新型コロナの発症を予防できる効果があるため、アメリカではそうした目的での緊急使用が認められていますが(7)、ソトロビマブについてはこのエビデンスはありません。
今回の特例承認、基本的には「軽症者用の抗体薬の流通を増やすため」と理解してよいと思います。
ソトロビマブの効果は
新型コロナの抗体薬のすべてがウイルスに対して一定の効果がありますが(8)、アメリカで初期に用いられていた抗体カクテル療法バムラニビマブ/エテセビマブは、先ほど述べたようにすでにベータ型変異ウイルスやデルタ型変異ウイルスでやや感受性が低下していることが報告されています(9)。
そのため、現時点で新型コロナに対する抗体薬は、世界的にもカシリビマブ/イムデビマブ、ソトロビマブの2剤のうちいずれかが用いられています。
ソトロビマブは軽症~中等症Iの患者さんのうち、肥満や糖尿病など重症化リスクが高い場合に点滴で投与します。これによって、入院や死亡を約8割減らすことができるとされています(10-12)。
カシリビマブ/イムデビマブと同じく、ソトロビマブも発症後1週間以内の投与が原則です。
なお、酸素療法が必要な中等症II以上の患者さんには効果がありません。そのため、カシリビマブ/イムデビマブと同じく、外来・宿泊施設・待機センターなどで投与することが最も効果的です。当面ソトロビマブは入院での使用が前提になりますが、安全性が確認されれば、いずれこの制限は撤廃されるものと思われます。
医療逼迫を防ぐために、本薬のような軽症の患者さんの重症化を防ぐ治療薬の普及に期待しています。
(参考)
(1) Olender SA, et al. Clin Infect Dis. 2020 Jul 24;ciaa1041.
(2) Beigel JH, et al. N Engl J Med. 2020 Nov 5;383(19):1813-1826.
(3) WHO Solidarity Trial Consortium. N Engl J Med. 2021 Feb 11;384(6):497-511.
(4) Ader F, et al. Lancet Infect Dis. 2021 Sep 14;S1473-3099(21)00485-0.(5) Ansems K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Aug 5;8(8):CD014962.
(6) Kumar S, et al. PLOS Pathogens. 2021; DOI: https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1009885
(7) Food and Drug Administration. Fact sheet for health care providers: emergency use authorization (EUA) of REGEN-COV (casirivimab with imdevimab). (URL:https://www.fda.gov/media/145611/download)
(8) Siemieniuk RA, et al. BMJ. 2021 Sep 23;374:n2231.
(9) Food and Drug Administration. Fact sheet for healthcare providers: emergency use authorization (EUA) of bamlanivimab and etesevimab. 2021. (URL:https://www.fda.gov/media/145802/download)
(10) Food and Drug Administration. Fact sheet for healthcare providers: emergency use authorization (EUA) of sotrovimab. 2021. (URL:https://www.fda.gov/media/149534/download)
(11) Gupta A, et al. Early Covid-19 Treatment With SARS-CoV-2 Neutralizing Antibody Sotrovimab. medRxiv. 2021; DOI:10.1101/2021.05.27.21257096
(12) Kreuzberger N, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Sep 2;9(9):CD013825.
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
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2021-09-27 22:18:39Z
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