ヴァネッサ・ブッシュルーター、BBCニュース
ブラジルで外界と接触を絶っていた先住民部族の最後の1人が死亡した。ブラジルの国立先住民保護財団(FUNAI)が28日、発表した。
死亡した先住民の男性は、ブラジル北西部ロンドニア州にあるタナル先住民地区で約26年間、1人で暮らしていた。今月23日、小屋の前のハンモックで死亡しているのが発見された。暴力を受けた形跡はなく、自然死と見られている。推定60歳だった。
男性の名前は不明で、複数の深い穴を掘っていたことから、「穴の男」などと呼ばれていた。穴には、動物の捕獲用のものもあれば、身を隠すためとみられるものもあった。
男性の部族のほとんどは1970年代に、牧草地を拡大しようとする違法伐採業者らに殺害された様子。1995年に同じ部族の6人が違法採掘業者に殺害されたため、この男性が部族唯一の生存者となった。
ブラジルの国立先住民保護財団(FUNAI)が、男性の存在に初めて気づいたのは1996年。それ以降、男性の安全確保のため周辺地区を定期的にパトロールしていた。
こうしたパトロールの一環で、FUNAIの職員アルテア・ホセ・アルガイエ氏が23日に男性の遺体を発見した。植物でできた小屋の前で、ハンモックに横たわっていた男性の体は、インコの羽で覆われていたという。
先住民族に詳しいマルセロ・ドス・サントス氏は現地メディアに、自分の死を悟った男性が、鳥の羽を自分の身に着けたのではないかと話した。
「死を待っていたようだ。暴力を受けた様子はなかった」とサントス氏は言い、男性が死亡したのはおそらく遺体発見の40~50日前だっただろうと述べた。
ブラジル当局によると、タナル先住民地区に外部から何者かが侵入した形跡はなく、小屋の中も荒らされていなかった。何らかの病気が死因だったのか確認するため、検視を行う方針という。
外部の人間との接触を避けていた男性が、どの言語を使い、どの民族集団に属していたかは分かっていない。
FUNAIは2018年、密林で男性と偶然出くわし、撮影に成功している。斧(おの)のようなもので木をたたく様子が映っている。
男性の目撃情報はこれ以降はなかったものの、FUNAIの職員は男性による複数の小屋や、男性が掘ったとみられる深い穴を複数発見している。
穴の一部には、先端を鋭くして槍(やり)状にした棒が底に仕込まれていた。イノシシなどを狩りで追い込むわなだったのではないかとされている。
男性の遺体を発見したFUNAIのアルガイエ氏によると、男性がこれまでに作った50以上の小屋の中にもすべて、深さ3メートルの穴があったという。
アルガイエ氏は穴について、男性にとって何かスピリチュアルな意味合いを持つのではないかと考えている。他方、身を隠すためのものだったのではないかという意見もある。
これまで周囲で見つかった証拠から、男性はトウモロコシやキャッサバを植え、ハチミツを集めていた。ほかにも、パパイヤやバナナといった果物も採集していた。
ブラジルの憲法は先住民に対して、自分たちの伝統的な土地で生活する権利を認めている。男性が暮らしていたタナル先住民地区に外部から入ることは、1998年から規制されてきた。
広さ8070ヘクタールのこの先住民地区を取り巻く地域は、農地として使われている。農場主など周囲の地主たちはこれまで、先住民地区への立ち入りが禁止されていることに、強く反発してきた。
2009年にはこの地域のFUNAI駐在所が攻撃され、現場からは薬莢(やっきょう)が見つかった。男性と、男性を守る財団職員への警告だったとみられている。
先住民地区への立ち入り制限は毎年見直しの対象になる。制限が続くには、先住民が居住している記録が求められる。
男性の死亡を受け、先住民の権利保護団体は、タナル先住民地区を恒久的な保護措置の対象にするよう求めている。
ブラジルには約240の先住民部族がいる。その多くは違法の採掘や伐採、農地開発などの業者に脅かされていると、先住民の権利保護団体「サバイバル・インターナショナル」は指摘する。
ブラジルの先住民が直面する危険については、昨年11月に英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で注目を集めた。先住民の環境保護活動家チャイ・スルイさんが、開会式で森林保護の重要性について熱弁した後、チャイさんは大勢から殺害すると脅された。
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2022-08-30 03:49:59Z
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